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しょこたん

 日本で一番長距離列車が似合う上野駅13番ホームに、8両編成という決して長くはないブルートレインが入ってきた。行き止まり式のこのホームには、尾久の客車区から「推進運転」といって、機関車が編成を押しながら入ってくる。

 私が人生で唯一会った秋田県民であるしょこたんは、大館の出身である。今は東京の表参道のアパレルでOLをやっている。完璧に標準語を操り、本人が口に出さなければ、東京か神奈川の出身だと言っても信じてしまうだろう。東京に来て出会った人間で最もおしゃれで目の覚めるような秋田小町。しょこたんといい、佐々木希といい、秋田には「小町」の言葉通り、何かあるのか、などと馬鹿な事を考えてみてもした。そもそもこの旅行はゴールデンウィークの頃に計画していたのだけれど、しょこたんから十和田湖や奥入瀬の話を聞いて、期待を持って秋田に乗り込むことになった。

 車内のアナウンスが、今日は満席であることを告げている。かつての北のターミナル上野駅も、寝台特急は札幌と金沢、そしてこの羽越線まわりの青森行の計3本のみ。それらとは別に豪華寝台が札幌に行くものの、観光列車の性格を帯びており、移動の手段として生きているのはこの3本のみとなった。他に金沢行の座席急行が夜行として走っている。
 自分の開放B寝台コンパートメントでは私が一番若かった。あとはみな60代前後と思われる人たち。隣のコンパートメントは私と同じくらいの男性4人組であったが、ずうっと喋り通しでうるさくて仕方がない。夜行列車のルールを知らん連中だ。少なくとも彼らが越後湯沢までは寝台灯をつけて話込んでたのはわかっていた。何故なら私もその辺りまで通路の椅子で本を読んでた=起きていたからだ。
 象潟で一度目が覚めたが本格的に起きたのは秋田に到着する寸前だった。朝7時前であったけれど、寝台列車といいながらもここからは立席特急券で普通の座席特急と同じように乗れるとあって、大量に人が乗り込んできた。
 車内に方言が充満した。こちらの言葉は同じ日本語と言えども何を言っているのか分からない。
 私のコンパートメントでは、まず初老のスーツをきっちりと着こなした男性が二ツ井で降りた。この方、余程律儀な人と見えて、シーツや布団を綺麗に畳んで窓側にそろえ、その上にハンガーを丁寧に建てかけた。私は上段であったので通路の椅子に座っていたが、下段のもう一人の男性が「空いた寝台に座りなさい」と席をすすめてくれた。弘前まで行くこの男性は、時代がかったお決まりの話を始めた。いわく集団就職列車で東京に出てきた。親の調子が悪いので弘前に戻る等々。津軽に行くのにはこの列車がなんだかんだ言っても一番便利だ。でもJRも新しい車両を作らないから、その内この列車も無くなるのだろうが、新幹線が青森まで来たとしても、勿論秋田まで来ている今でも、乗り換えもいらず夜東京を出て朝田舎に帰れるのだから、これほど便利な列車は無い...。
 もう一人、私の向かいの上段に寝ていた女性は結局降りてこなかった。昨日の検札で見た感じでは、青森まで行くようだった。

 8時半過ぎに大館で列車を下りた。駅前には何もなく、秋田犬の銅像だけがポツリと鎮座していた。最近、日本の地方都市は何処に行っても寂しく感じられて仕方が無いのだが、しょこたんの印象があるだけに余計に暗くなった。
 かつてこの駅前が繁盛していたのは容易に想像できた。店らしきものはいくつかあった。しかし、朝とは言っても開いている店が、駅の正面に見える今から自分が向かおうとしているレンタカー屋しかない。タクシーが数台、駅前にたむろしているが、長距離列車が到着したこの時間でも乗る人がいなかった。大体駅にだって人などいやしない。駅員と、キオスクの売り場の女性と、地元の人が10人程度。それも高校生くらいの若者だ。待合室も黙りこくっている。音の無い空間で、喋ることを拒否してしまっているようだ。もし似合う音があるとすれば、風が吹きつける音だけだろう。

 表参道のしゃれた雰囲気と、このうら寂しい大館駅前との差は一体何なんだろうか。とても同一人物に関係するところには思えなかった。間違いなくこの駅前に立ったことはある筈だが、どうしてもおしゃれなアパレルOLがこの駅頭に立つような光景は想像することが出来ない。高校を卒業して東京の専門学校に来たということだったが、無理もない。10代の若者をとどめ置けるだけの理由がここにあるのだろうか。唯一あるとすれば故郷の二文字だけ。若者の流出が地方都市の問題になっているけれども、その現実をまざまざと見せつけられた気がした。

 少し暗い気分でレンタカーを借り、十和田湖へ走らせた。

プロフィール

Mr.Problem

Author:Mr.Problem
東京移住。
職業:雲のジュウザ
根本思想:世界人民大団結万歳(笑)
多少、あちこちに行ってましたが、。結婚してからはめっきり諸外国へ出ることが少なくなりました。せめて一年に一度くらいは海外には出たい。元パッカーの習性で旅行は旗持ちではなくほぼ個人旅行。基本的には今世界で起こっていることについて思うところや、今まで行った街の印象を徒然に書いていきます。
みなさんが世の中について考える何かの助けになれば。

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